Let's stop for a cup of tea.





「……ええと、こっち、かな」
 少女の腕の中で、子猫がニャアニャアと鳴く。
「あ、こっち?」
 眼鏡の青年が逆の方を指すと、ミャアと一度だけ鳴いた。
 それを何度か繰り返すうちに、子猫がしびれを切らしたように、ひらりと地面に降りて道案内を始めた。眼鏡の青年はただ子猫の導くままに、少女のもとに辿り着いたのだから、帰り道が分からないのは仕方ないのかもしれない。何より、眼鏡の青年は、実は方向音痴だった。
「「ただいま」」
 心強い子猫の導きで、ようやく二人と一匹は温かい我が家に着いた。
「おかえり。お腹が空いただろう?手を洗ってきなさい。すぐにおやつにしよう」
 髪の長い青年が、二人と一匹を出迎えて、少女と眼鏡の青年は、はいと元気な返事をして奥へと向かう。おみやげよ、とニコニコと笑う少女から、野イチゴを受け取った髪の長い青年は、少女の手に巻かれたハンカチに気づいたけれど、何も言わずにその小さな背中を見送った。
 二人が手を洗って食堂に戻る前に、野イチゴを洗って水を切り、食卓の上の皿に添える。一緒に、テーブルの傍で、疲れたように寝転んだ子猫の前に二枚の皿を置いた。
「ご苦労だったな、アル。ヴィルヘルム一人では、きっともっと遅くなっていただろう。何しろやつは方向音痴だからな」
 並べられた皿の、一枚は少女の摘んできた野イチゴの皿。もう一枚はハチミツ入りのミルク、ではなかった。初めて出された飲み物が興味深かったのか、皿に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。その頭を、繊細な仕種で撫でた。
「黒スグリのシロップだ。飲みやすいように薄めてある。…どうだ?」
 ぺろりと一舐めして、機嫌よさそうに立った耳と、揺れるしっぽに満足そうにそうか、と頷いた。
 全員が揃った食卓の上の、四枚のパンケーキを見て少女は瞳を輝かせた。
「わあ〜!」
 まあるいパンケーキには、ほのかなピンク色をしたクリームで、可愛いお花が描かれている。
 少女の嬉しそうな様子に、誇らしげに髪の長い青年が言った。
「木イチゴのジャムと生クリームを混ぜて作ったんだ。それでルートヴィッヒが、お前の好きなエリカの花を描いたんだよ」
 照れ隠しであることが、隠しきれない少年は早口で言った。
「別に、ヤーコプ兄さんが作ったクリームが、たまたまこの花の色だったから、描いただけだ」
「もう、二人とも…先に食べててって、言ったのに」
「ははっ、何を言うんだ。俺たちが大事な家族をおいて、食べるわけがないだろう?」
「……ヤーコプ兄さんは、単に仲間はずれがいやだっただけじゃないですか?」
 控えめに言う少年の頭をくしゃりと撫でて、髪の長い青年は、さあ食べよう、と笑った。
 食卓の上には四枚のお皿。眼鏡の青年が焼いて、髪の長い青年が作ったクリームで、少年が花を描いたふわふわのパンケーキと、黒い子猫が探し出した、迷子になった少女の摘んだ野イチゴ。それに四客のティーカップ。
 少し時間は遅くなってしまったけれど、とても幸福で、温かなおやつの時間が始まった。




後書き
 「Secret kiss"」に入れる予定でしたが、入りきれなかったのでおまけという形で書きました。
 …はい、皆さまお気づきでしょう。この話はヴィルヘルム兄さんのカテゴリにあるのがおかしいほど、髪の長い青年が活躍していることに…!

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